P2PがMP3を大量にばら撒き、偽装された拡張子を踏む危険性を物ともせずに、音楽を取り巻く状況が進化してしまった。業界は慌てふためき、規制に乗り出す。 でも技術が変えていく現状は、後戻りしない。もう僕たちは、MP3以降の世界に来てしまった。 そんな中、ネットを中心にMP3で楽曲をリリース、しかもフリーで提供する音楽レーベルが出てきた。特に注目を集める日本発のレーベルが、「Maltine Records」だ。 Maltine Recordsの特徴は、クラブミュージックとアニソンなどのネタものが今的にハイブリッドされている独自のシーンを形作っているところだ。昨今のアニメブームによって、サブカル人間たちが「けいおん！ けいおん！」と騒ぎながら続々と参入するアキバ系音楽シーンの中でも特に異彩を放っている話題のレーベルだ。 代表の一人であるTomad氏に経緯などを聞いてみた。 「高1の時に、友達のSyemと一緒に始めました。最初は自分たちの曲を自分たちでリリースしたかったんです」 既存のレーベルにアプローチするのは、敷居が高い。ならば、自分たちで作ったほうが早いという。 その後、ストリーミング放送のソフトウェアSHOUTcastでDJをストリームし、2chで告知して遊んでいるうちに、音楽好きが集まり始めた。 その後、参加アーティストもネットで募集し、ジャケデザインなども仲間が無償でやってくれる今のスタイルにたどり着く。 2chからblog、Twitter、Facebookへと活用するメディアが変化していく中で、ネットに分散していた有志が集まり、最近ついに「MP3 KILLED CD STAR ?」というコンピレーションCD、つまり“物体”までをリリース。ただし２枚組の１枚はCD-R。元ネタへのURLリストが添付された。 マッシュルームカットに偽装された温和な青年Tomad氏の中には、野心が見え隠れする。 「データは無限にコピーできる。それが可能性なのに、制限するなんておかしい」 さらには、iPhoneアプリもリリース。ほぼすべての楽曲がストリーミングで聴ける。 「もうダウンロードすらめんどくさい。ストリーミングでいいのかもしれない」 拡張していくネットのダイナミズムに乗せて、Maltine Recordsは従来の音楽の抱えるお荷物を物ともせずに拡張していく。 【Tomad】1989年生まれ。ポップとクラブの間を駆け巡るネット発レーベルMaltine Records主催。maltinerecords.cs8.biz 【エキソニモ】千房けん輔、赤岩やえによるアートユニット。現在、ICC「みえないちから」展にてインスタレーション≪SUPERNATURAL≫展示中。exonemo.com