萩原俊矢とは、いろいろな場所で会ったことがあった。まさに神出鬼没。そして、どこにいてもその場にとけ込み、どの色にでもなじむ独特のキャラクタは、なんだか人間離れしている、そんな気配を持っている。
我々が主催で開催している”ドークボット東京※”というイベントに彼が登場した。そしてそこで面白いことがあった。それは奇跡的な美しい出来事だったんだけど、あまりに深い文脈性で説明するのが難しく、、、以下、伝わらないかも知れないけど、とりあえず書いてみる。
ドークボット東京では、誰でも自分の持ちネタや作品を披露できるコーナーがあるのだが、今回はそれを特別にコンテスト形式で行い、そのコンテストの企画をWebで公募することにした。するとある日、“aekleybill”なる人物から意味不明な内容の企画が投稿されてきた。実はこれ、人ではなくWebのフォームのセキュリティを突破してきたSPAM BOTからの投稿だった。スタッフ一同がこの事態を面白がっていると、結果的に2名の“人間”がこのコンテストに参加表明。おそらく史上初の、BOTが企画したコンテストが開催されることとなったのだ!!
イベント当日、勝敗を競うのは、suzukiiiiiiiiii氏(以下S氏、人間)とhgw氏(萩原俊矢、人間)。
1人持ち時間5分のプレゼンで、勝敗は観客の携帯からの投票数で決まる。得票数はプレゼン中にリアルタイムでスクリーンに投影される仕掛け。とは言っても、内容が意味不明の英文で埋め尽くされたコンテスト。何を基準に投票して良いのかすら誰もわからない状態でスタートし、各人のSPAMコンテストらしい戦略が試される形になった。
最初のプレゼンはS氏。彼は、登壇すると何も喋らずにモバイルPCをいじり始めた。そして、制限時間半ば、こう言い放った。
「今から組織票を動かします」
彼は、自身のTwitterに携帯の投票用URLを流し投票を呼びかけていた。すると、得票数は見たことないスピードで上昇! 会場はただ唖然と見つめるしかない状況。
この見事なハックにイベントは乗っ取られたのだ!! “ほぼ何もしない”で最高得点をはじき出したS氏は、5分ちょうどで悠々とステージを後にする。いきなりの裏技に、もう誰にも勝ち目はないと思われた。
そんな逆風の中、萩原が涼しげな佇まいで登場。あくまで“まともに”プレゼンを開始する。
「ある日メールを開くと、SPAMフィルタをかいくぐって届いたメッセージがありました。それはHTMLのテーブルタグを駆使して作られた“VIAGRA”という文字でした。その涙ぐましい努力にインスピレーションを得ました」
そして、好きな文字から、SPAMライクなテーブルタグ・タイポグラフィを生成するWebサービス“AEKLEYBILL (http://aekleybill.com/)”が披露された。
その時、みなが異変に気づいた。萩原のプレゼン開始の当初から、得票カウンターがぐんぐんと上がり続けていたのだ。そう、実はこれ、S氏の呼びかけた組織票による投票がいまだに続いていたのだ。彼は投票を呼びかけはしたが、投票の停止は呼びかけてなかった。1点のミスを犯したのだ!!
逆風が順風に変わり、萩原のプレゼンを後押しし、強風へと変わっていく。
「DORKBOT」と入力すると、みごとにテーブルセルで作られたピクセル文字に変換され、会場がどよめく。「日本語もできます」と変換してみせると、会場から感嘆の声が沸き起こり、「難しい漢字も」と言い「薔薇」と表示すると歓声が起こる。プレゼンと得票カウンターの相乗効果で、会場とネットとが一体になり上昇気流を形作っていた。
両者のプレゼンが終わり、集計結果を開くと、S氏 275票、萩原 777票。なんと萩原のカウントが偶然にも777票、ラッキー7のぞろ目を出していた。
まさにSPAMの神が降臨した瞬間だった。
誰が勝ったのか、何が良かったのかすら、わからなかった。だけど、BOT、ハック、SPAM、ネットの群衆、会場の人々、全部がその瞬間に響き会って、何かが動いていた、新しかった、美しかった、そんな体験だった。後日、萩原俊矢とテーブルを囲いながら話していた。いったい萩原俊矢は何者なのかと。
彼の答えは『
"AEKLEYBILL and SHUNYA HAGIWARA"
http://exonemo.com/view-source/aekleybill.html